下記は、フェロー諸島のゴンドウクジラ猟(grindadráp) に対する反捕鯨活動家の圧力に答えるために、元猟師によって書かれた文書です。
出版社からの制限も指導もなく、本人自身の言葉であらわした本人の意見です。彼は意見を述べるだけで脅迫や攻撃を受ける経験を既にしているので、ここではファーストネーム(名前)のみ公開します。
この文書を出版する独立した反捕鯨活動家のSasha Abdolmajidはフェロー諸島のゴンドウクジラ猟の終結を求めていますが、フェロー諸島の住民を批判するつもりはありません。話し合いや相互理解などのために、このフェロー諸島のゴンドウクジラ猟に以前参加していた1人の住民の考えを両サイドの人たちに知ってもらいたいだけです。
訳者注:フェロー諸島の捕鯨は日本の捕鯨とは異なります。日本では捕鯨は行政の認可を受けた業者しか行えませんし、猟期や捕獲枠が設けられています。一方、フェロー諸島ではシーズンに関係なく、島に鯨が近づくと島民が一丸となって猟に出かけます。猟の参加は自由選択です。

ゴンドウクジラはシャチに次いで最も大きいイルカの仲間です。フェロー諸島では、年間約800頭が個人消費用に捕獲されます。猟は地区の共同体で組織して行われます。 写真:Jochen Zaeschmar 提供
私の名前はヤクップ(仮名)。34歳。ゴンドウクジラ猟に以前参加していた者です。ゴンドウクジラ肉の水銀汚染問題を知り、5年前に参加をやめた。フェロー諸島の公衆衛生課の医長であるPál Weihe博士の警告を聞いて以来、鯨肉は一切食べていない。
これまでの私の人生は、ゴンドウクジラ猟とずっと一緒にあった。子どもの頃は、父が浜で猟を行っているのを見て、将来は自分もやるんだと思っていた。父は、猟に関して熱狂的だったわけではなく、冷静な考え方を持ち、鯨肉が足りないときだけ参加していた。あるとき、私が父に猟に行くかどうかを尋ねたら、父は「足りてるから行かない」と言った。
大きくなって、私が自発的に猟に参加するようになった。父は、自分でとりに行かなくても肉がもらえるから嬉しかったようだ。私は肉が足りていても猟に参加し、知人に配ることもあった。例えば、鯨肉好きだけど自分では参加できなくなった妻の祖父や、他に鯨肉が足りていない知り合いに分けてあげた。他人に食料をあげることができるのは気持ち良いもんだった。
初めて自分でクジラを「切った」時、年配の男性に指導してもらった。その男性はずっと私の側にいてくれたので、すべての作業が完璧にできた。我々は叩いて切ったりするわけじゃない。刃を入れるのは一度だけだ。
父が子どもの頃は、週に何回か鯨肉を食べていたようだけれど、私の時は、月に何回か程度だった。Pál Weihe博士は父の健康診断を行っている。父の健康状態は完璧だ。水銀などの汚染物の被害は一切見つかっていない。
海外の活動家が我々の猟を批判するインターネット投稿を見るとビックリする。よく目にするのは「あの島々が津波にやられたらいいんだ」「汚染肉を食って、死にやがれ」「核爆弾を落とせばいいんだ」「カルマにやられるぞ!→罰が当たるぞ!」など。1200年以上も猟をやっているのに、一体いつの罰が当たるんだろう?「核爆弾」や「津波」のようなコメントは、シー・シェパード(SSCS)のフェイスブックページに投稿されても削除されることはないけれど、それに対して歪曲的な表現だとか真っ赤な嘘だと指摘すると、コメントはすぐに削除され、ユーザーもブロックされる。
こんなのを読むと、彼らは真実を広げようとしているわけではないと結論せざるをえない。ただ単に嫌悪を増やすことしか狙っていない。嫌悪を増やせば人は戦いたくなるから、(反捕鯨団体に)寄付をする。
年間800頭程獲ったからといって、どうしてこれが「海を殺している」なのか? 汚染の害がもっと大きいのに、どうして汚染と戦わないのか? 答えは簡単。血だらけの海の写真と歪曲した報道が大きな反応を呼び、寄付を保証するからだ。
私は動物の権利のために活動する人を尊敬している、けれども汚い技を使ったり、鯨だけに保護の声が集中するのをみると、尊敬も信頼もできなくなる。動物の権利は鯨に限る物ではないではないか。
こんなデタラメな報道をよく見る。猟の時、私たちは適当に刃物を振り上げて、鯨を叩き切る、だとか、猟師はみんな酔っぱらっている。これは祭りだ。男らしさの証明だ。肉は食わず腐らしておくんだ。子どもたちに汚染された食べ物を与えている、など…。(ハッキリしてくれ!食べてるのか、捨ててるのか、どちらだというんだ?)
こんなデタラメは特定の組織によって作られた偽の報道なのだと説明しようとしたこともあるが、反応は様々だった。嘘を鵜呑みにして申し訳なかった、と謝る人もいるけど、反撃してくる人もいる。「お前は嘘つきだ。どこどこで読んだから真実だとわかってるんだ。猟は残酷な遊びに過ぎないぞ」など。まあ、それだったら、私もヤツらについての嫌なことも書けるけど、そうしたところで何かがよくなるわけじゃない。
現在、捕鯨反対のため、女優のパメラ・アンダーソン がフェロー諸島に来ている。私が思うのは、彼女の国の方が我々より多くの鯨を殺しているというのに、どうして自国の捕鯨を反対しないのか、ということだ。フェロー諸島で獲ってるのはゴンドウクジラだ。ゴンドウクジラは絶滅リストにはいない。米国やカナダで獲っているのは、絶滅危惧種のホッキョククジラやシロイルカやイッカククジラだ。
多くの人はこの事実を忘れているのか、それとも、もともと知らないのか。事実を知っている反捕鯨家でも、「それは先住民だからいいんだ」と許す。我々フェロー諸島の人間も先住民ではないのか? この島に昔から住み続けているのは我々だけだ。我々は先住民ではないのか? それとも、白人だから先住民にはならないのか? これらはすべて、言い訳に過ぎない。結局のところ、米国もカナダも捕鯨を続けている。
シー・シェパードは法律に従った活動をしていると宣伝するけれど、船を沈没させるのはいつから合法になったのか? 他人の物を破壊するのもいつから合法になったのか? いつもEUの法律を主張するのに、指導者のポール・ワトソンはEUからの逃亡者ではないか? すごい矛盾だ。
正直なところ、このような悪意ある活動を見るたびに、あまりにも頭にきて捕鯨に戻りたくなる。どんな肉でも生きていた時期があったんだ。ハンバーガーを食いながら我々に「捕鯨がいけない」などと言うな。もし完全菜食主義者なのであれば応援するけれども。
フェロー諸島には、Grindadráp を反対している人もいる。地元の人間だ。そういう人と触れあって、真実を知って、彼らを応援してほしい。活動を始める前に話し合って、問題の様々な面を理解して、どうしたら解決できるかを聞いてほしい。
憎悪や非難や侮辱ではクジラの命を救えない。80年代からずっと、そのやり方で成功例は出ていない。そろそろ戦術を変えるべきだ。フェロー諸島では殺人事件は過去23年間に一度しかない。そんなことが言える国がこの世界に一体いくつあるのか? 我々は野蛮人でも精神異常者でもない。子どもたちは凶暴な殺し屋に育つこともない。先に言ったように、過去23年間に殺人は一度だけ。クジラを殺すのをやめて欲しいなら、我々を敵にとして見ることを、まずやめることだ。
読んでいただきありがとうございました。
ヤクップ
和訳:サイモン・ヴァーナム
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Just right.